聴覚障害学生を支援する学生は、支援の現状に何を求めているのか?

大学や短大、高専等の高等教育機関において、ノートテイクや手話通訳等によって、

聴覚障害学生を支援している学生が、現状の支援に対し改善を望んでいること、不足

していることがあれば、それは何であるのかを、支援現場で活躍する支援学生の皆さ

んに直接きいてきました。その結果、大きくわけて4つのことが求められていることが

わかりました。

1.事前情報の提供

聴覚障害学生と支援学生は、ともすればお互いのことをまったく知らないまま支援の現場に

向かうことも少なくありません。学部のたくさんある総合大学ほど、そういう傾向があるかも知れ

ません。特に、聴覚障害学生の聴力や、コミュニケーション・モード(手話、読唇etc..)などに

ついては、支援学生の皆さんの関心も高いようです。裏を返せば、支援がはじまっても、どの

ようにコミュニケーションをとったらわからないという不安を見て取ることができます。

音楽の講義において、演奏のようすを要約筆記したところ、聴覚障害学生はその楽器自体

の存在を知らなかったということがあったそうです。どの程度、聴力が活用されているかに

よっても、こういった前提知識に差が出てくるものと思われます。

手探りで信頼関係を築いていくのもよいけれども、授業は半期しかないのだから、情報が

ないと時間のロスにつながる、といった支援学生の意見もありました。

 

2.支援者研修の充実

支援学生は採用時などに、十分な研修を受けて支援に臨むものと思われますが、さらに

充実してほしいという意見が多く見られました。語学やグループディスカッションなど、授

業形態に特化した専門的な研修や、聴覚障害学生の生の話をきく機会、彼らとの交流

の機会が求められていました。マニュアルと現実は違うので、そのギャップを埋めたいと

いう思いがあるようです。実際の現場に入り、練習とのギャップにショックをうけたり、完璧

さを求めるあまりやめてしまう人もいるようです。充実した研修は、それらを予防することに

なりますね。また、採用後も継続的に研修してほしいとの声もありました。

 

3.支援に対する評価

評価、というと厳しいものに感じられもしますが、支援学生は、自身の支援活動について

評価欲求があることが明らかになりました。やっていることが間違っていませんよ、という

ポジティブなものや、だめ出しのようなものまで、何らかの反応があると安心できるという

意見がありました。「自分のやり方がこれでいいのだと確認したい、安心したい」「自分

が完ぺきにできたと思っていても,聴覚障害学生が理解できていなければ意味がない」

という感じです。適切な支援は聴覚障害学生にとっても良いことで、それを声に出すこ

とは、支援学生の気持ちにも良いのですね。批判ではなく、建設的な意見を出し合うと

いうイメージが、良いのかも知れません。

 

4.聴覚障害学生からの働きかけ

支援の主役は聴覚障害学生であり、どのようなニーズがあるのかを開示していくのは、

支援を受ける者の責任と言えるかも知れませんね。支援学生の側からも、聴覚障害

学生が主体的に関わってくれることは歓迎のようです。「遠慮なく」「支援をもらってい

るという気持ちを捨ててほしい」これらの言葉は支援学生から異口同音にきかれました。

逆に言えば、聴覚障害学生からの働きかけがあまりないな、と、皆さん感じているので

しょうか。

 

本記事にかかる研究は以下の文献に発表され、詳細に記述されています。

杉中拓央・原島恒夫・堅田明義(2014)高等教育機関において聴覚障害学生を支援する学生が支援の現況に対して改善を望む課題.聴覚言語障害,42(2),77-86.

要旨:高等教育機関において聴覚障害学生を支援する学生が,現行の支援環境に改善を望んでいることは何であるのか,支援学生の男女12名にインタビュー調査を実施した。発話データを質的手法により分析した結果,【事前情報の提供】【研修の充実】【支援に対する評価】【聴覚障害学生からの働きかけ】からなる4つのカテゴリが抽出された。発話を見ると,支援学生は聴覚障害学生に関する情報が不足した状態に置かれていた。加えて,自身の支援行為に対するフィードバックや評価を求めていた。従って,これらの改善のためには,事前情報の提供の機会や,聴覚障害学生の自己開示を促す研修の設計等が効果を上げると考えられる。本研究は少数事例の分類であるため,今後は知見の一般化をめざし,調査対象の増加等を検討する。

 

 

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