インフォーマルな場に参加する

聴覚障害者の離・転職率が多いという事実は徐々に共有がされつつあります。
その理由としてはコミュニケーションの問題やミスマッチが言われています。

このうち、コミュニケーションの問題というのは、単純に言語力・聴力の
問題として扱われがちですが、本当にそうでしょうか。
例えば、十分な書記能力をもった聴覚障害者が、すべての仕事を文字情報によって
完結させるような環境を得た場合、その離職に歯止めがかかるのでしょうか。

与えられた仕事をただ不自由なくこなしたい、という考え方に重点を置いていれば、
すべて文字情報に置き換えるという手段は有効な支援と言えるかも知れません。
しかし、企業(学校であっても)は組織であり、連携によって物事は推進します。
経営であれ学問であれ、人々は現状を甘受して、そのまま維持していこうとはしません。
1よりは2を、せめて1を1.1にしようと、日々知恵を絞るのではないでしょうか。

その過程にあるのは議論であり、異なる価値観の交換です。
一個人で1を2に変えるのは至難の業であるからです。

誰かが思いついた名案は、まずインフォーマルな場でリリースされます。
その舞台となるのは立ち話か、居酒屋か、あるいは最近は縮小傾向にある喫煙所でしょうか。
会議にかけられるような際には、大勢が決している場合が多いのではないでしょうか。
聴覚障害者に必要であるのは、このような「たくらみに加わる」という体験であるように
思います。やりがいの一部と言えるのではないでしょうか。

マニュアルのある、正答のある業務は、努力さえすれば、遅かれ早かれ誰でもこなすことが
できるようになるとも考えられます。その先の、一人一人の個性を打ち出していくのは
柔軟な発想と提案であり、上司や同僚の共感と賛同を得る行為ではないでしょうか。
これを欠けば、組織にいながらにして、一人で作業をしていることになると考えます。

聴覚障害の影響を物理的に解消しようとする試みはとても大切なことですが、
上に述べたような認識もまた、企業人に浸透すればと感じます。

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