そんなわけでこうなりました04-「適応していく」ということ(小学校時代その3)

前回(「スイミング」)の話の最後に、「適応していく力」と書いた。

聞こえにくさ・聞こえないことを補うためには、やはり「見る」ことから情報を得ようとする。

これは、頑張って身につけるものというよりは、それまで本人が生活をしてきた

経験の中で、自然と身についてくるものだと思う。

状況判断もその1つである。音としての情報は飛び交っているのかもしれないけれど、

聞くことに困難があると、それに気付きにくくなったり,聞き取れないことが多くなる。

けれども、それが分からなかったらそのままじっとしているのかというと、それも違うだろう。

周りを見て、とりあえず皆に習って動いてみる。

「なんとなくそれなりに」行動できることが多い。行動した「結果」だけで見れば、問題が

ないことも多いのだろうけれど、その結果に至るまでのプロセスは結構大変なのである。

 

と、説明だけしていても分かりにくくなるので、私の経験を例に話すことにする。

クラスでフルーツバスケットというゲームをした時のこと(ルールの説明は省かせていただく)。

私は、鬼の子が何のフルーツを言ったのか分からないことが多い。そこで、席を移動して

いる子達をまず見る(その時は、自分達に割り振られたフルーツの絵を冠状にしてみんな

かぶっていた)。そして、その子達の頭のフルーツの絵が自分と同じだった時はすぐ席を

立ち、皆と同じように「きゃーっ!」と移動するのだ。当然、少し出遅れているわけだから

近場の空いた席を狙うことがほとんどだった。

 

ここまでならまあまあついていける。しかし、フルーツだけでは物足りなくなってくるのが

子ども達の性である。そのうち、「メガネをかけてる人!」など鬼の子が自由にお題を

決めてゲームは盛り上がり、【フルーツバスケット】は【なんでもバスケット】となってしまう。

こうなるとそれまで使っていた「見る」手段は使えなくなってしまい、お手上げだ。

 

だから、鬼の子がなんて言うのか一生懸命集中して耳を傾ける。そして聞き取ることが

でき、かつ、自分にも当てはまるお題だった時は、皆と同じように「きゃーっ!」と

楽しんで移動ができる。聞き取れなかった時は、やむなく気まずい気持ちで

自分の席にとどまったまま。

 

別に動かなくたって支障はないけれど、皆と同じように楽しみたいし、ドキドキしたい。

子どもながらにそう思っていた。だから、できるだけ皆に合わせようと、自然と状況を

読んだり、頑張って聞き取ろうとすることが多かった。

自分が「聞こえにくいから」という理由よりは,周りと「同じように」した方が良いと

思っていたことから、こういう行動をとることが多かった。

 

何も知らずに、上記のようにフルーツバスケットで遊ぶ私を見たら、きっと、問題なく

遊べているように思うだろう。けれどもそれは、冒頭に記した通り、「結果」だけを

見れば問題ないということと同じである。

実際にその「結果」に至るためには、常に周りを見ていたり、集中して聞き取って

みようとしたり、場の雰囲気を読んでなんとなく合わせてみたり…といろいろと頭を

働かせながら、本人の中ではこうしたことが複雑に絡み合っているのである。

負担も大きい。さらに、これは目に見えるものでもない。ちなみに、「結果」は

うまくいく時もあるし、前回のスイミングの話のように失敗に終わることだってある。

 

周りを見ていることも、ちょっと集中してことばを聞き取ろうとしていることも、場の

雰囲気を読んでいることも、端から見れば分かりにくいし、気付かれないことが多い。

そして、気付かれないまま、本人の中では適応していく力が少しずつ育っていく

ことも多いのだろうなぁと、自分を振り返って思うのだ。

 

うまくいった「結果」が「適応」だとしたら、目に見える「適応」の部分に安心することなく、

そこに至るまでのプロセスや、裏の部分にも目を向けることが大切なのではないかと

考える。それが、聞こえにくい・聞こえないということを知るきっかけになるだろうから。

そして、より負担なく適応し、生活できる方法はないか考えることにもつながるだろうから。

なかなか難しいことではあるが、こうしたことを一緒に考えてくれる人たちが増えたら

良いなと、当事者として、また一支援者として思うのだ。

 

とある当事者の画像とある当事者のプロフィール

20代。(おそらく先天性の)両側進行性感音難聴である。 難聴が発覚したのは、

小学校2年生の時。発覚時の聴力は、右耳が90dB,左耳が45dB程度。そこから

徐々に聴力が低下し、2014年時点では、右耳が115 dBスケールアウト、左耳が

90dBである。ろう学校への通学経験はなく、大学を卒業後、医療系職の資格

取得を目指して専門学校へ進学。その後、障害に関わるお仕事をしている。

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